『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』(トルストイ)

光文社の新翻訳シリーズ。レフ・ニコラエヴィチ・トルストイは1828-1910、帝政ロシアの小説家。訳者の望月哲男さんは、北大の教授らしい。イワンの方は舞台が1882年、小説の初版が1884年らしい。クロイツェル・ソナタは1889年とされている。

イワン・イリイチの死

前者を読み終わって印象に残るのは、結婚と人生に対する辛辣な描写。最初は良かれと思って結婚し、幸せであったのが、不満・不快が表れ始め多くなっていき、やがて快適に幸福に過ごせる時間が離れ小嶋のようにぽつぽつとしかなくなり。それも間遠になってやがてなくなり、望むのはそこから逃避していくこと。あるあるあるある。。。ひどいですね。すみません。そういうのは少数派かも知れず、何年経っても仲良く暮らしている夫婦もあるので、相性&スキルの問題とは思う。

小説の方では、原因不明の病に倒れ死に瀕するようになり、うまくやってきたと思っていた人生を振り返るなかで、結婚に対する理想と幻滅が人生全体に引き伸ばされる。本当に価値のあることとは何だろう。人の生きる意味とは何だろう。自分は何のために生きているのだろう。何をもって自分の存在を正当なものと主張できるだろうか。こういう質問をして耐えられる人生はめったになかろう。

話はそれるが、現代的なインテリゲンチャは「価値=意味はない」ということを出発点として論を立てる傾向にあると思うのだけど、19世紀末のインテリゲンチャは、そのような問いに真っ向からぶつかって、ある者は破滅し、ある者は最後の一点に救いを見出した。

思い出すのは『春にして君を離れ』(アガサ・クリスティー)。ジョーン・スカダモアは立派だし、そのだんなも、感心はしないが、それなりに立派だと思う。『春にして君を離れ』は必ずしも悲劇ではない。イワンの方も読んでみると面白いと思う。

『春にして君を離れ』については、古典的名作・傑作ではないが故の、感じるものがあると思う。一方、『イワン・イリイチの死』は、歴史的傑作であるが故に、万人に通じる普遍性と、その一方でのインパクトの弱さ、だれにでも通じる言葉に価値がないようにも思えてしまう。でも、後者もすばらしい小説と思う。前者を読んで感じるものがあった人には、後者も読んでほしい。その逆も然り。

クロイツェル・ソナタ

『クロイツェル・ソナタ』は、昔、新潮で読んで面白かった。新訳で再読したが、面白かった。

「クロイツェル・ソナタ」はベートーベンが作曲した、ヴァイオリン助奏つきのピアノ・ソナタなのだそうだ。

恋愛感情や男女間の親密さは、突き詰めれば性欲に由来しているということが、訥々と語られる。夫婦生活の描写は『イワン・イリイチの死』と同じようでもあるが、こちらでは、恋愛感情や親密さといった、崇高とされるものも、性欲を背景とした自動反応で汚らわしいものとされる。

それもそうだと思う。親密さの下部構造としてのSEXに注目した作品が多々あるように思う。ここらへんのことを考えるのは難しい。どういうことなんだろうね。前にも書いたことがあるが、人を好きになる場合、なぜ、絵や星や樹を見て感嘆するように愛せないのか。絵や星や樹を愛でる場合、対象をどうこうしたいという気にはならない。それなのに、対象が人の場合に抱く、見たい・聴きたい・触れたい・匂いをかぎたいという欲望はなんなんだろうかと。「それは性欲です」というのは簡単だと思うけど。率直に言って不思議だし困る。

それはそれとして、本作品は表現と考察が面白いと思う。普通の感想だけど。

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『聖☆おにいさん』(中村 光)

めちゃくちゃ面白い。いまさらだが。これは読んで損は無い。マンガ読みで本書を読んでなかったら損だ。

同著者のラブコメ『荒川アンダーザブリッジ』も読んでみたいと思った。

主人公は、釈迦族のゴータマ・シッダッタこと仏陀と、ヨシュアことイエス・キリスト。二人は世紀末を終えて余暇中で立川在住。

まあ、ジーザスことイエスをキリスト(メシア、ハリストス)と呼称することはユダヤ教への配慮が無いとも言える。あと、ヱホバ(ヤハウェ、エロヒム)を神とする三つの指輪という観点では、ユダヤ教に加えて、マホメットことムハンマド(・イブン=アブドゥッラーフ・イブン=アブドゥルムッタリブ)についても言及してほしいと思うけど、著者が暗殺されちゃうから無理か。残念。

でも、そういうことはどうでも良いと思う。それだけ本書は面白くてニヤリネタがたくさん詰まっている。極めてきわどいネタなので、、著者のバランス感覚はすばらしいと思う。


4巻が出てたので購入アゲ。5巻は2010年4月目標らしい。安定感のあるギャグマンがになってきたと思う。

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『刺青の男』(レイ・ブラッドベリ)

刺青の男 (ハヤカワ文庫 NV 111)
レイ・ブラッドベリ
早川書房
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The Illustrated Man, 1951.

「幻想と詩情に満ちた」と評されるSF短編の名手。本短編集は、体中に刺青のある大男の、18個の刺青毎に短編小説画が語られる。

玉石混交。ちょっと気の効いた短編集から、明らかに手抜きと思われるものまで。印象としてはフレドリック・ブラウンの短編集に似た感じを覚える。フレドリック・ブラウンはアイディアに気の効いた短編が多いが、本短編集ではそういうものは少ない。ブラッドベリの方が怪奇幻想寄りで詩情に富んだ語り口が特徴かもしれない。

山本弘が、本書を念頭に置いたたという『アイの物語』みたいな、インターミッションを挟んで短編集を一つの長編にするような構成ではない。プロローグとエピローグは繋がってはいるが。

面白い短編もあるが、総じて普通のSF短編集だと思う。

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『美貌の果実』(川原 泉)

美貌の果実 (白泉社文庫)
川原 泉
白泉社
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トーマの心臓』を借りて、少女漫画を思い出した。そんなにたくさん読んではいないが、好きな作家は、川原 泉、榛野 なな恵、吉野 朔実あたり。

川原を読み返して、敢えてタイトルを挙げるならこれかなというのが本書。川原らしさと画力の安定度が均衡していて読みやすいと思う。でも、川原は、どの作品がとりわけどう、というものではないのだよなとも思う。

川原作品の登場人物は、もぎゅもぎゅ食べて、にぱーっと笑う。漫画文庫としては、『美貌の果実』と『中国の壷』が読みやすくて良い。ここら辺を良しとできれば、『バビロンまで何マイル?』、『笑う大天使(ミカエル)』、『メイプル戦記』などの長編も良いと思うだろう。そしたら、『銀のロマンティック・・・わはは』や『甲子園の空に笑え』なんかの、稚拙な初期作品も良いと思うかもしない。榛野なな恵の『Papa told me』や陸奥A子なんかも好きだったなぁ。吉野朔実は『いたいけな瞳』がすごかったなぁ。なんてことを思いして、これも読み返したら、良いな、『Papa told me』。。。

川原泉はお勧めだ。川原には、萩尾望都ほどの作家性も表現力も無い。素っ頓狂な設定と独特な節回しの台詞。しかし、一番の特徴は暢気さや優しさだと思う。登場人物に悪人がいない。悪人は居るかもしれないが、悪意がない。すれ違いはあるが、みんな善良で、とにかく、もぎゅもぎゅ食べて、にぱーっと笑う。そうやって、にぱーっと笑ったり、もぎゅもぎゅ食べられたらいいのになーと思う。

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『トーマの心臓』(萩尾 望都)

トーマの心臓 (小学館文庫)
萩尾 望都
小学館
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少女漫画。萩尾 望都の名前を最初に知ったのは小学生の頃、魔夜 峰雄の『パタリロ』にて。職場の新入社員に貸してもらった。

その作家性がすばらしい。漫画の画力・表現力もすばらしい。少女漫画というカテゴリに括る必要のない作家性で、これは伝説になるわと思った。トマス・マンやヘッセを連想した。難を云えば、エンディングが弱いと思う。

萩尾望都を敬愛する森博嗣が同名の小説を書いたのだそうだ。それを件の新人から読んでると教えてもらって、「あー、はぎ・おもと?」みたいな感じで貸してもらった。森博嗣の小説はまだ文庫に落ちてないらしい。新人氏は図書館で借りたらしい。

『トーマの心臓』は面白かった。漫画文庫で一冊分の分量なのだが、ビルドゥーングス・ロマンの体裁で物語を描き切っていると思う。エンディングが弱いような気もするけど、そこに至るまでの描き振りがすばらしい。漫画表現としても、隠喩的にも情景描写的にも、非常に表現力が豊かだと思う。叙情性が高い。感情の動きの繊細さが感じられるコマがある一方で、コミカルさや萌えの要素も。

こういう漫画を読んで育ったおにゃのこの方が、『キン肉マン』や『キャプテン翼』を読んで育った野郎よりも情操的に豊かであるのは已む得ないなと認識を新たにした。まあ、『Dr.スランプ』も『ジョジョの奇妙な冒険』も、面白かったと思いますけど。

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『密やかな結晶』(小川 洋子)

密やかな結晶 (講談社文庫)
小川 洋子
講談社
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大変面白かった。

どこかで聞いたことある著者だと思ったら、ちょっと前に流行って、映画にもなった『博士の愛した数式』の著者らしい。職場の新入社員に教えてもらった。

小説家の女性の一人称。先入観なしで読むのが良いと思う。村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』や、筒井の『残像に口紅を』を思い出した。

  • おじいさんが良い役過ぎる。
  • 終わりつつある世界と、その密やかな雰囲気が良い感じ。
  • その親密さが恋情であることにやや違和感。穏やかなものではあるにせよ。

感情の動きは一貫して穏やかで良い感じ。その立場が途中で一転し、二転するのが面白い。主人公の書く小説が、終わり行く世界と歩を共にしながら対象性を持つ。

R氏が途中でごちゃごちゃ云うのが、親切ごかしでむかつく一方、それをよしとして受け入れる主人公とおじいさんが優しい。

こうして好きな人を匿い、そのために献身し、自分に頼ってもらい、頼ってもらったことに喜びを感じて益々献身するような、そういうのって、あこがれる。その姿を見たいと思うし、何かを食べたり飲んだりする様を見るだに、何がしか憧れや渇望感を抱くのであるし、眉根を顰めたり笑ったりする処を見たいと思うし、近付きたいと思うし、その声を聞きたいと思うし、その肌に触れたいし、その髪や体臭の匂いを胸いっぱいに吸い込んで堪能したいし、強く抱きしめたいと思う。そういう思いの中であれば、セックスも自然なことだと思うし、なぜそうでないかを自然に不思議に思えると思う。密やかさや陶酔や。激しさの中ではなく、静謐さの中に深い陶酔があるのではないかという予感は果たされない。

その人の役に立つかもとか、喜んでもらえるかもと思って努力することは喜ばしいし、もし、それで喜んでもらえたら最高。そういう感傷をカジュアルに抱かせる本書は良い本だと思う。

好きな人と一緒に居続ければそれが喜ばしいであろう。好きな人を、いつまでも好きで居続けられれば喜ばしかろう。好きな人を、いつまでも胸に抱いて、まどろんでいれられば幸せであろう。

読中も読後の余韻も良かったのだが、思い返すと、もっと良くなったのでは、という感じもある。『博士の〜』は、流行ったときに、なんとなくつまらなそうだなぁという印象を持っていた。映画のポスターのせいかも。『博士の〜』も読んでみようと思う。

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『パンク侍、斬られて候』(町田 康)

パンク侍、斬られて候 (角川文庫)
町田 康
角川書店
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1980年代に活動していたパンクバンドINUのボーカル町田 町蔵こと町田 康による時代小説。

丁寧な時代小説の用語と、スチャラカな現代語が混在した、威勢のよい小説。まあ、面白かった、かな。

流浪の牢人である超人的剣客とか、浮世離れした大名である殿とか腹黒い家老とか、恐るべき災厄をもたらす新興宗教である腹ふり党とか、その基地外じみた幹部であるとか。時代小説・伝奇小説のギミックというか、コード・お約束がてんこもりなんだけど、だいぶ違う。

時代小説としての端正な言葉遣いと並んで、破格というかアングラマティカルな現代口語。「諧謔と風刺」には事欠かないが、一見の面白さ以上の破壊的な圧力は感じなかった。こういう筋書きのアルバムがあれば面白いかもしれない。

まあ、面白いと思う。でも、それほど感心しなかった。文庫版だと、高橋 源一郎の解説が読める。確かに、高橋源一郎は、こういう小説を書きたいだろうなぁと思う。エンターテイナーとしてはきわめて短い最盛期の中島 らもなんかも、こういう小説を書きたかっかもなぁと思った。わりと評判の良い、同著者の『告白』も読んでみようと思う。

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『鍵』(谷崎 潤一郎)

鍵 (中公文庫 (た30-6))
鍵 (中公文庫 (た30-6))
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谷崎 潤一郎 中央公論新社 売り上げランキング: 170094

とても面白かった。職場の新入社員に教えてもらった。。

序盤で、ものすごい変態で、そういえば、眠れる美女みずうみでそういうのあったよなーと思い、大変面白く、良い趣味だと思った。のだが、中盤で、やぎさん郵便みたくなり、これは川端よりも面白いぞと思う。長編だけのことはある。エンディングは、きれいにまとめたなと思い、面白いのだが、それなり。そこに至るまでの筆力がすばらしい。棟方志功の版画の挿絵も良い。

川端の『眠れる美女』の方が、変態性は突出している気がするが、小説としては、こっちの方が完成度が高いと思う。とにかく、面白かった。クロージングは、まあ良いのだが、そこに至るまでが面白い。すばらしい。

その執着や、セックスの重さや、サディックな衝動やマゾヒスティックな抑圧の喜びへの転化や。その肌へ触れることや、その髪や肌の匂いへ鼻をうづめることや。それらに対する喜びや衝動や。その肌や匂いを、舌や肌や二の腕の中に感じていられれば喜ばしいであろう。

本書に見出されるのは、そこに在る実在への畏敬であると同時に欠落した陶酔への渇望であると思われる。つまり、それらの根源は、その対象の存在の強靭さであると同時に、主観的に失われたものへの憧憬にも由来するように思われるので、読むに当り、獲得と喪失の経験が必要であると思う。その陶酔と渇望がない交ぜになった恍惚、その中での嗜虐的・被虐的衝動。このグラグラをリビドーと呼ぶなら、それらが遠くなりつつあることであるとか。

読んだ時期によって色々な印象で読める本だと思う。

今年読んだ中で、一番面白かった!

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『1984年』(ジョージ・オーウェル)

1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)
ジョージ・オーウェル 新庄 哲夫 George Orwell 早川書房 売り上げランキング: 103969

Nineteen Eighty-Four, 1949.

ユートピアの反対語をディストピアと呼ぶらしい。村上春樹の『1Q84』が評判が良いので、その前に原典を読んでみた。

時代は1984年、舞台はオセアニア、ユーラシア、イースタシアの三大超大国家に分かれた1984年における、オセアニアのロンドン。

前半は、社会主義体制下の上の下の階級(下級役人。Outer Party)の主人公、ウィンストン・スミスの視点から、全体主義・階級制が徹底された監視社会、徹底的に情報統制された社会を描く。中盤では、スミスと同じく体制に反感を持つ同じ階級のジューリアと隠れ家でいちゃいちゃする。終盤では、反体制的であることが発覚して捕らえられ、洗脳と抵抗が描かれる。最終的にどうなるかは、本書を読んでもらうのが良いと思う。

古い。全体のストーリーやテーマはSFとして良いのだが、全体の展開が遅い。それも良いのだが、会話文の口語が不自然。特に、女性の口語が不自然すぎる。ジューリアの口語は、もっと萌え萌えにできると思う。と思ってたら、一九八四年[新訳版]があるらしい。そっちも読んでみようかな。古い小説として、読めないわけではないし、それなりに面白かった。

村上春樹のも、文庫に落ちたら読んでみようと思う。でも、その前に、『ねじまき鳥クロニクル』かな。『海辺のカフカ』は面白かったと思う。

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『神様のボート』(江國 香織)

神様のボート
神様のボート
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江國 香織
新潮社
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江國 香織で読んだ初の小説。面白く読めた。職場の新入社員に教えてもらった。

なんとなく、梨木香歩に似た印象を覚えたのだが、江國さんも児童文学出身だそうだ。だいたい、おばあさんが出てくる小説は名作であると思うのだが、賢い子供が描ける小説も名作である率が高いと思う。梨木香歩の方が好きではあるのだけれども、ばななの『キッチン』に似た印象も覚える。

江國さんの他の小説も読んでみようと思った。色川武大(というよりも、阿佐田哲也)が、彼女の幼少時にかわいがっていたとかという話を聞くに付け、なんとなく評価が高くなってしまう。

本書は面白い小説だったと思う。葉子が草子を大事に慈しんでいることも、草子が葉子を好きであることも、とても良かった。

梨木香歩の、『西の魔女が死んだ』や『りかさん』のほうが好きではあるが、本書のエンディングもハッピーエンドだと思う。序盤は、おしゃれげな感じが鼻に付く気もしたが、読み終わってみれば、そういう印象でもない。本書が好きな人は、『春にして君を離れ』を読むことを薦める。vice versa。

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『ヴィヨンの妻』(太宰 治)

ヴィヨンの妻 (新潮文庫)
太宰 治
新潮社
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先日、太宰治を描いたマンガを貸してもらって、再読してみんとて、手にとってみた。

中高生の頃には夢中になったが、それ以降、再読することもなかった。

で、手にとってみたのだが、虚心坦懐に評価することはできない。太宰を読んだのであって、小説を読んだわけではないというか。例えば、三島とかなら、あまり思い入れもないので白紙の心に近い状態で小説として読むことができるが、太宰は思い入れが強すぎると言うか、色がつき過ぎていて、小説として読むことが難しい。

本書は短編集。主に太宰に擬した主人公の私小説的なものなんだが、表題の短編集は妻の独白形式で珍しいと思う。短いので軽い読み物が欲しい時にでも手にとればよいのではないか。

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『フェルマーの最終定理』(サイモン・シン)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)
サイモン シン
新潮社
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1995年にフェルマーの最終定理が証明されたドラマを描いた本。数学の詳細に一切立ち入らずに、これだけのドラマを描いたサイモン・シンの筆力に圧倒される。

3 以上の自然数 n について、xn + yn = znとなる 0 でない自然数 (x, y, z) の組み合わせがない

職場の新入社員に教えてもらった。面白い。ちなみに、原題は『フェルマーの謎』(Fermat's Enigma)らしい。

高木の『近世数学史談』や一刀斎の『数学の歴史』や『異説 数学者列伝』を好んで読んでいたが、これだけ数学のことを語らずに数学の中の流れを説明してエキサイティングな本を読んだことがない。

流石はテレビ屋!古代ギリシャ数学から暗黒時代を経てルネッサンスに至り、ヒルベルトプログラムとゲーデルを経て現代数学にいたる豪腕に感心した。というかあっけにとられた。非常に面白かった。

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『ショートソング』(枡野 浩一)

ショートソング (集英社文庫)
枡野 浩一 集英社 売り上げランキング: 186235

職場の新入社員に教えてもらった。面白い。

『サラダ記念日』(1987)で一世を風靡した俵万智以来の現代口語短歌の歌人である枡野 浩一の普通小説。

たいへん面白く読めた。個人的に目に留まってぐっと来た歌いはつぎのものである。

君は僕のとなりで僕に関係ないことで泣く いいにおいをさせて

いつまでもおぼえていよう 君にゆで玉子の殻をむいてもらった

最後まで汚い嘘をつき続け きっとこの人あやまるつもり

なつかしい夢しか好きなものがない あなたもはやくなつかしくなれ

というわけで、楽しく読めてのではあるが、キャラクターへの愛がないようにも感じられる。伊賀さんと国友が主人公なのは良いとして、その他の人々がロールプレイになってしまっているように感じられる。短歌をハイライトするための方便にも思われるが、小説として読むと、どうかなぁとも思う。処女長編小説としてはすばらしいできばえとは思うけど。。。

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『ファウンデーションの誕生』(上・下)(アイザック・アシモフ)

ファウンデーションの誕生(上)―銀河帝国興亡史〈7〉 (ハヤカワ文庫SF)
アイザック アシモフ
早川書房
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Forward the Foundation, 1993.

ファウンデーションへの序曲』の続編。前作で心理歴史学に着手したハリ・セルダンが、ターミナスにファウンデーションを設立するにいたるまで。前作と本作で、ハリ・セルダンの半生記になっている。ファウンデーション・シリーズを全て読んできた人には感慨があると思う。

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『ファウンデーションへの序曲』(上・下)(アイザック・アシモフ)

ファウンデーションへの序曲(上)―銀河帝国興亡史〈6〉 (ハヤカワ文庫SF)
アイザック アシモフ
早川書房
売り上げランキング: 124689

Prelude to Foundation, 1988.

ファウンデーションシリーズの第六巻。帝国末期の若きハリ・セルダンが、心理歴史学を興すまで。

時代的には、帝国ものの末期、ファウンデーション・シリーズの最初期に当たる。書かれたのは、『ファウンデーションと地球』の次らしい。アシモフ的には、『ファウンデーションの彼方へ』 -> 『夜明けのロボット』 -> 『ロボットと帝国』で、ロボットものの未来史と銀河帝国興亡史を結びつけ、『ファウンデーションと地球』で円環構造としたものであるようだ。

で、本作品では、ファウンデーション・シリーズの第一作『ファウンデーション』の前、ハリ・セルダンの若き日に焦点を当てている。

それでどうなのよ、というと、面白く、読むのに苦痛は感じないが、傑作でもない。アシモフの未来史の一部であり、アシモフの小説を読むことが好きなのであればもちろん、読むのが良いであろう。アシモフはロボット物が面白いと思う。

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『アートバイブル』(日本聖書協会)

アートバイブル
アートバイブル
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何 恭上 町田 俊之
日本聖書協会
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これは良い。Vol.2も出てるんだな。

アートバイブル2
アートバイブル2
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何 恭上
日本聖書協会
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『ロボットと帝国』(アイザック・アシモフ)

ロボットと帝国〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
アイザック アシモフ 早川書房 売り上げランキング: 88196

Robots and Empire, 1985.

前作『夜明けのロボット』に引き続き、sfミステリー長編。本策では、前作までの主人公、イライジャ・ベイリは、短命の地球人の定めのために亡くなっている。代わって活躍するのはR・ダニールとR・ジスカルド。人間は、長命なスペーサーであるグレディアと、イライジャの7代目の子孫でセツラーのトレイダーであるダニール・ジスカルド・ベイリ。敵役は、親地球派のファストルフ博士亡き後、影響力を取り戻してイライジャへの怨念と地球の破滅に執念を燃やすアマディロ博士。

本作と前作で、ファウンデーション・シリーズとはそれなりに結合する。本作の切っ掛けとなるソラリアが空になった理由は、ファウンデーション・シリーズの最も未来に位置する『ファウンデーションと地球』で明らかにされる。また、DGベイリの航海史についても触れられている。

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『夜明けのロボット』(アイザック・アシモフ)

夜明けのロボット〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
アイザック アシモフ 早川書房 売り上げランキング: 136530

The Robots of Dawn, 1983.

アシモフのロボットものの長編第三作目。第一作目の『鋼鉄都市』(1954)から『はだかの太陽』(1956)を経て刊行された第三作(1983)。

第二作から期間が開いているのは、ファウンデーション・シリーズとの融合を図るために書かれたものであるからだ。『ファウンデーションの彼方へ』(1982)の直後に書かれている。

R・ダニール・オリヴォーの基本設計者であり、スペーサー・ワールドの指導的惑星オーロラにおける指導的政治家でもある、ロボット工学者ハン・ファストルフ博士による、ヒューマンフォーム・ロボット(アンドロイド)「R・ジャンダー・パネル」の破壊容疑をはらすために、イライジャ・ベイリがオーロラに召還される。 古きよきミステリー仕立てのSFミステリー長編。第一作からの主人公、イライジャ・ベイリ存命中の最後の物語であもある。

このロボット長編ものは好きなシリーズで、ファウンデーション・シリーズを読むにあたって再読してみた。

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フランス文学

sibaccioさんのブログを読んでて、フランス文学の面白いものが読みたくなった。

今までのフランス文学のベストは、
 ・『マノン・レスコー』(アベ・プレヴォ)
 ・『テレーズ・デスケルウ』(フランソワ・モーリアック)

フランス文学のちょっと古いやつは、時々ものすごく面白いと思う。
それで探してみたんだけど、めぼしいものが見つからず、とりあえず、
 ・スタンダール
 ・フローベル
 ・サガン
をAmazonで注文してみた。

そういえば、昔、ネルヴァルの『火の娘たち』をほとんど読めなかったなぁ。引っ張り出してリトライしようかな。
プルースト読めというのはあるのだと思うけど、面白いものがあれば教えてください。

よろしくお願いします。
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『アイの物語』(山本 弘)

アイの物語 (角川文庫)
山本 弘
角川グループパブリッシング
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神は沈黙せず』の著者による中・短編集。

人類が衰退して大都市は廃墟と化し、マシンが世界に君臨している遠い未来。食料を盗んだ青年に、アイビスと名乗る美しきアンドロイドが語って聞かせる物語という枠組みになっている。こうして物語り内物語として語られる個々の中・短編でも、現実と物語の二重構造になっている。

一連の短編にインターミッションをはさんでひとつにまとめる構成は、『プランク・ゼロ』と同じようなしつらえだけれども、こっちの方がテーマの一貫性が高く評価が高い。著者はブラッドベリの『刺青の男』を原型にしたらしい。

アイはアイビスの愛称。それは「I(私)」であり、「AI(人工知能)」であり、「i(虚数)」であり、「愛」である。

これは過去のSFに登場するロボット・人工知能のありかた対する反論でもある。前半の短編は小手調べとして位置づけられ、徐々により現実的でディープな思考実験に近づいていく。これはアシモフのファウンデーション宇宙の歴史にも似ながら、より徹底している。ロボットとアンドロイドのどちらから出発しているかの差として観ることもできると思う。

本書は長編としてきちんと成り立っており、『神は沈黙せず』よりもエンターテイメントとして完成度が高い。

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